近年、企業サイトやクラウドサービスを狙ったWebアプリケーション攻撃が増え続けています。特にECサイトや会員制サービス、予約・申込システムを持つ企業では、気付かないうちに不正アクセスを許し、個人情報や決済データが盗まれてしまうケースも珍しくありません。
について、初心者の方にもわかりやすく解説します。
WAFは、Webサイトに送信される通信内容を監視し、不正なコードや攻撃パターンを検知・遮断するセキュリティ装置(またはクラウドサービス)で、Webアプリケーションを守る防御システムです。
従来のファイアウォールが「外部からの侵入(IP・ポート)」を監視するのに対し、WAFは「通信の中身(アプリケーション層)」を分析し、“正しい通信だけを通す”フィルターのように働きます。
WAFの防御対象は主に下記になります。攻撃の種類とその内容をまとめました。
| 攻撃種類 | 内容 |
| SQLインジェクション | データベースを不正操作し、情報を盗む/書き換える攻撃 |
| クロスサイトスクリプティング(XSS) | 悪意あるスクリプトを埋め込み、ユーザー情報を奪う攻撃 |
| 不正ファイルアップロード | ウイルス・不正プログラムをサーバーに送り込む |
| Cookie偽造 | ログイン情報を盗用し、なりすましを行う |
| セッションハイジャック | 通信中のユーザーの操作を乗っ取る |
これらは見た目に分かりにくく、知らないうちに情報流出につながる危険性があります。
近年、国内のECサイトを狙った不正アクセスは急増しています。特に2024年は、これまでにない規模の情報流出が報告されました。ある調査※1では、2024年4〜6月の3カ月間だけで国内ECサイトから漏えいしたクレジットカード情報が12万件超に達し、前年同期比で約11倍という異常な増加が明らかになっています。この数字は「特定の1社」ではなく、複数ECサイトを対象にした統計値であり、業界全体で攻撃が激化していることを示しています。
(※1:株式会社リンク調べ)
被害は地域や業種を問わず広がっています。たとえば、2025年に公表された空手用品の「一撃オフィシャルショップ」※2では、旧サイトの脆弱性を突かれ、クレジットカード情報7,455件を含む個人情報が流出した可能性があるとされています。攻撃者は決済プログラムを改ざんし、入力されたカード情報が不正サーバーへ送信される仕組みを組み込んでいました。
また、2024年に発生した「e-ながさきどっとこむ」※3では、決済アプリケーションが不正に改ざんされ、カード情報18,746件および多数の会員情報が攻撃者側に送信される状態になっていました。運営団体は調査機関の解析を経て、再発防止策としてWAF導入・24時間監視・定期脆弱性診断を実施しています。これは、事後対策としてWAFが有効と判断された代表的なケースです。
さらに、全国漁業協同組合連合会が運営する「JFおさかなマルシェ ギョギョいち」※4では、サイト構築サービスに残存していたXSS脆弱性を起点に攻撃が展開されました。攻撃者は不正ファイルを設置し、決済プログラムを改ざんして、カード情報11,844件を外部へ送信する仕組みを構築。警察への報告、カード会社との連携、対象カードの再発行など、大規模な対応が必要となりました。
これらの事例は、「自社は小規模だから狙われない」という考えが通用しないことを示しています。むしろ、中小企業のECサイトは専任のセキュリティ担当者が少ないことから、攻撃者にとって“狙いやすい標的”になりやすいと指摘されています。
加えて多くの事例で、WAFの不備、設定ミス、未導入、脆弱性放置などが被害拡大の背景となっており、Webアプリケーションの保護が経営上の重要課題となっていることが浮き彫りになっています。
※2:「一撃オフィシャルショップ」株式会社クレイズ 公表文書
※3:「e-ながさきどっとこむ」一般社団法人長崎県物産振興協会 公表文書
※4:「JFおさかなマルシェ ギョギョいち」全国漁業協同組合連合会 公表文書
弊社が独自に実施したヒアリングの結果では、中小企業の約7割はWAF未導入という状況でした(2025年11月時点)。
中小企業でWAF導入が進まない背景には、「難しそう」「コストが高い」「自社には関係ない」といった心理的ハードルがあります。特に、社内に専門知識を持つ担当者がいない場合、WAFの設定や運用が負担になると考えられ、導入が後回しにされがちです。また、従来のオンプレミス型WAFは高額な初期費用や専門的なチューニングが必要で、導入障壁となってきました。
しかし近年は、クラウド型WAFの登場により状況が大きく変わりつつあります。クラウド型は初期費用が抑えられ、導入作業も軽く、外部の専門チームがルール更新や監視を行うサービスも増えています。
Scutum(スキュータム)、SiteGuard(サイトガード)、AWS WAF など、小規模なWebサイト・低トラフィック環境であれば、クラウド型WAFの導入を月数千円から検討できるサービスも登場しており、中小企業でも導入しやすい環境が整いつつあります。(ただし、サイト規模やトラフィック量、SSL対応・API対応などの条件によって料金は上がるため、「月数千円〜」というのはあくまでスタート時の目安になります。)
実際、ECサイトの被害増加に伴い、クラウド型WAFを採用する企業は着実に増えており、「専門の担当者がいなくても導入・運用できる」点が評価されているようです。
WAFは強力な防御システムですが、設定が不適切であったり、チューニングが不十分な場合、十分な効果を発揮できません。
WAF導入後に起きがちな失敗として、以下のようなことが挙げられます。
Webアプリケーションは、多くの企業にとって次のような事業の中枢になっています。
WAFは、Web通信の内容を監視し、攻撃を遮断する防御システムです。
ECや会員サイトが増え、Web攻撃のリスクが高まっている現在、多くの企業での必要性が高まっています。最近では、クラウド型で月数千円から利用可能なサービスも出てきており、導入ハードルが下がってきています。
重要な視点は、導入して終わりではなく、導入後もチューニングと運用が鍵となる、ということです。
LYSTでは、