クラウド活用・リモートワーク・モバイル端末の一般化により、企業ネットワークの境界は、もはや形として存在しなくなりました。「社内=安全」「社外=危険」という従来の前提が崩れた今、新たな防御思想として注目され続けているのが ゼロトラスト(Zero Trust) です。
サイバー攻撃は企業規模を問わず増加しており、中小企業でも標的型攻撃・情報漏えい・アカウント乗っ取りのリスクは高まっています。
前回のコラムではASM、前々回のコラムではWAFについて取り上げ、解説してまいりましたが、今回はそれらとも密接に関係する“企業全体の安全基盤”としてのゼロトラストを解説します。
ゼロトラストとは ── 「すべてのアクセスを疑う」新しい防御思想
ゼロトラストの基本概念は非常にシンプルです。
“何も信頼しない(Never Trust)、常に検証する(Always Verify)”
すなわち、ユーザー・端末・アプリケーションのどれも自動的には信用せず、アクセスが行われるたびに 本人性・端末の安全性・アクセス元の場所・行動の妥当性 を確認し、最小権限で許可をする考え方です。
- ゼロトラストの主要な要素
| ID管理 | IAM:Identity and Access Management |
| ユーザーの権限と利用範囲を厳格に管理。企業で扱う「アカウント」「権限」「認証方式」を統合し、一元的にコントロールするための枠組み | |
| 多要素認証 | MFA:Multi-Factor Authentication |
| パスワードだけに頼らない認証。“パスワード + 追加要素(SMS、アプリ認証、生体認証など)”を組み合わせる認証方式 | |
| 端末の準拠チェック | MDM:Mobile Device Management(モバイルデバイス管理) |
| 企業のスマホやタブレットの設定・セキュリティ状態を統制する仕組み。OS更新状況、紛失時の遠隔ロックなどを行う | |
| MAM:Mobile Application Management(モバイルアプリケーション管理) | |
| 端末そのものではなく、企業が利用するアプリ単位でデータ保護や利用制御を行う方式。BYOD(私物端末利用)でも業務アプリだけ安全に管理したい場合に用いられる | |
| データ分類と暗号化 | DLP:Data Loss Prevention |
| 重要データの持ち出し・コピー・転送を制御し、意図しない漏洩を防ぐ技術やプロセスのこと | |
| アクセス監査・ログ分析 | SIEM:Security Information and Event Management(セキュリティ情報 / イベント管理) |
| 大量のログデータを統合し、脅威を早期検知するプラットフォーム | |
| SOC:Security Operation Center(セキュリティ運用センター) | |
| 24時間の監視やアラート対応など、SIEMの運用を担う専門チーム・組織 |
社内と社外を隔てる防御線(ファイアウォールなど)の境界を作って守る時代から、「信頼を細かく検証し続ける」設計 に移っていくことが、ゼロトラストの本質です。これにより外部からの攻撃だけでなく、内部不正や誤送信・乗っ取りなど、従来防ぎにくかったリスクなども防止できます。
よくある誤解 ── “ツールを入れたらゼロトラスト化完了”ではない
ゼロトラストは特定の商品名ではなく 運用思想そのもの です。
そのため、次のような誤解が非常によく見られます。
- MFAを導入すればゼロトラスト化できる?
- VPNをやめればゼロトラストに近づく?
- セキュリティツールを1つ導入すればよい?
答えは NO です。
ゼロトラストはツールの集合ではなく、
権限設計・ログ監査・ルール整備・社員教育まで含めた“文化づくり” で完成します。
● 実際に起きたトラブル例
退職者のアカウント削除漏れが原因で、外部から不正アクセスされてしまった例があります。
この場合、セキュリティ製品そのものは正しく動作しており、問題は 「管理と運用の不備」 にありました。
つまり、ゼロトラストの核心は“ツール導入よりも運用”なのです。
なぜ今、中小企業でもゼロトラストが必要なのか
「ゼロトラストは大企業向けでは?」と考える企業は少なくありません。
しかし現場では、中小企業のほうが次の理由で被害リスクが高い傾向があります。
- 専任の情報システム担当者が不足
- 権限管理・アカウント管理が属人的
- リモートワーク端末の統制が難しい
- クラウドサービスの設定が初期設定のまま
- クラウドサービスの設定が初期設定のまま
- 例:共有アカウント使用、パスワード再利用、退職者アカウント放置など
ゼロトラストの導入によって、これらの “見えないリスク” を可視化し、運用ルールとして整理することで、被害を大幅に減らすことができます。
WAF や ASM と同様に、ゼロトラストも 「攻撃される前に弱点を見える化する」 という同じ方向性にあります。
ゼロトラスト実践のポイント──“小さく始めて習慣化する”
ゼロトラストは一度に全てを実施する必要はありません。むしろ、多くの中小企業では 段階的な導入 が効果的です。
ステップ1:本人確認の強化
• MFA を必ず利用
• 共有アカウントの廃止
• ID/権限を定期的に棚卸し
ステップ2:端末の安全性を可視化
• OSアップデートの強制
• 私物端末(BYOD)利用ルールの明確化
• MDM の導入
ステップ3:アクセス範囲を最小化
• 業務に不要な権限を付けない
• 重要データへのアクセスを分離
• ファイル共有権限の見直し
ステップ4:ログの監査とアラート
• 重要操作の記録
• 怪しい挙動を自動検知
• 月次での監査レポート化
段階的に導入し、「セキュリティを仕組みとして日常化する」ことが最重要ポイント です。

LYSTの支援──ゼロトラストを“運用文化”として定着させる
LYSTでは、Microsoft 365 や Google Workspace を中心に、中小企業が取り組みやすいゼロトラスト運用を体系化しています。
● LYSTが提供する支援例
- ID・権限管理の設計と棚卸しフロー
- MFA・端末管理(MDM)ルールの導入支援
- データ分類・アクセス制御の設計
- 操作ログ・監査レポートの可視化支援
- 社員向けセキュリティマニュアル・教育テンプレート
- 運用定着のための月次レビュー
特に、「ツール導入=ゴールではない」 点を重視し、運用ルール・社内教育・監査まで含めた継続的な支援を提供しています。
ゼロトラストは“守りを強化する”のではなく、「企業文化として安全性を組み込む」取り組み です。
まとめ──ゼロトラストは中小企業の“見えない弱点”を可視化する
前回(WAF)、前々回(ASM)に続き、今回は企業全体の基盤となるゼロトラストを解説しました。
- 企業ネットワークの境界がなくなった今、ゼロトラストは必須
- 重要なのはツールより運用と文化
- 中小企業ほどアカウント管理・権限管理の弱点が致命的になる
- 小さく始め、習慣化させることが成功の鍵
- LYSTはゼロトラスト運用の定着まで伴走支援
企業の“見えないサイバーリスク”を可視化し、日常業務と無理なく両立できるセキュリティ環境づくりを、LYSTがサポートいたします。
★LYSTにお気軽にご相談ください★
