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第二話 「新規事業」の4つの分類と事例

更新日:2021年3月24日



新規事業を考えるにあたって、基本的な4つのパターンを見直してみることにする。下記のように考える場合が多い。




さて、この図にある①~④だが、基本的に①に該当する商品(サービス)は、継続的に「金のなる木」であり、殆どの企業の活動の基となっている。また、②もしくは③への方向性は、その企業の持つ強みの展開の結果と言える。ここでは、④に当たる領域について考えてみる。


 

先に述べた(「はじめに」ご参照)ように、ヒト(人間)の感性は、過去の「経験×記憶×環境」によって形成され、多くの判断基準を構築している。そして、新しいアイデアや閃きは、全くの無から生まれるものではなく、ヒトの感性に大きく寄っており、そのヒトの持つ思考の枠を超えることはたやすいことではない。



私自身の話になるが、クライアントから新たなテーマを挙げられた時、「何をどう考えるか?」に多くの時間を費やすようにしている。当然時間的制約はあるが、これまでの経験値だけを基に新しいアイデアや閃きを生もうとすることはしない。経験値だけに頼ると、自身の思考の枠を超えられず、④の領域の思考にとっては逆に大きな障害になり、そこから生まれるアイデアや閃きは、「考えた」ことにはならない気がするからである。また、物事(テーマ)の本質を把握しきれない場合も多い。



よって、④の領域のテーマに入った場合は、まず、関係するその市場や現場に足を運ぶことが最初の作業となる。そして、そこに存在するステークホルダー(全ての関係者)を観察し、会話し、その場の皮膚感覚を感じるようにしている。恐らくこれが、最短かつ最良のそのテーマの本質を把握する基本と考えている。特に、買手(消費者)の判断、評価、不満、感情等々は、新たなアイデアや閃きの重要な情報源の一つとなる。ただし、この調査に値する行動を、「マーケティング」と称している企業が多いが、それは少々異なる気がする。



実際に幾度か、クライアントの優秀なスタッフが市場の調査をし、「●×△でした!だからこうですよ!」と元気よく自信たっぷりに会議で報告しているのを見たことがあるが、果たしてそれが、ここで言う思考の基になるかというと、大きなズレが生じる場合がある。



最初の段階での市場や現場への行動は、仮説構築するための第一段階であり、仮説の精度を裏付けるためのデータ収集や調査である。よって、初期段階で現場へ足を運ぶことの目的は、自らの経験(Experience≒CX(Customer Experience;カスタマーエクスペリエンス))である。ここでは、未体験の経験値を得ることによる新たな思考のシナリオに必要な経験情報を手に入れる事となる。



例えば、「富裕層」というキーワードにおいて、所得や消費行動などからペルソナを構築し、「何を、いくらでどのように売るか?」と仮説を立てるが、果たしてその仮説は適切なのか?「富裕層」の皮膚感覚(≠ニーズ)をホントに知りえているのだろうか?



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3年ほど前になるが、ある国内の大型船によるクルーズツアー関係者から、「リピーターを育てたいが、なかなかうまくいかない、どうしたらいいのでしょうか?」と相談されたことがある(現在は、3年前に比べると、好景気の象徴として、その業界での売り上げは右肩上がりで好調)。他の案件でも「富裕層」のテーマがあったので、思い切って、そのクルーズツアーに妻と乗ってみた。消費者側に回ってみることにより、その商品、サービスを選ぶ理由を明確にしようと考えたのだ。



※画像はイメージです。

その結果、自分のような一般的な生活状況の消費者にはマダマダ縁がないように感じた。なぜならば、そのクルーズが云々ではなく、そこにいる顧客があまりにも自分とは異なる次元であることを痛感したからである。丁度、年末のクリスマスディナーと併せて、メインイベントには某有名なバンドのコンサート等もあり、まさに非日常であったのだが、一番面食らったのは、ディナー後の生演奏の社交ダンス大会だった。通常、食後のバーやカラオケ等々はよくあるが・・・社交ダンスや模擬的なカジノなどの娯楽に、当然のごとく人々が楽しんでいる。・・・日常生活における文化や慣習の相違点をまさに感じた瞬間だった。



つまり、「富裕層」とは、自分が全く持っていない皮膚感覚ということ。これらを知らずに、先のような仮説は、意味があるのか?富裕層に限らず、未知の物事に関して、第三者からの情報のみや自身の想像だけで思考を組み立てたとしても、それはあまり精度の高い仮説やシナリオにならない。先の②や③からの延長線上で物事を考えた場合、どうしても過去の経験値や成功体験が邪魔をする。そうではなく、まず、「何が起こっているか?誰が顧客なのか?」を考えなければならない。




ある大手メーカーで、新規ビジネスをどのように進めるべきか相談をされたことがある。「この新しい技術で、こんな商品ができました!そこで、これをどのように売っていけばいいのかご教授いただけますか?」と。そして、「実は研究開発費に数億円かけているので、初年度はXXX億円の売上で、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値=顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益のこと)として3年で▲▲▲億円の売り上げが目標です・・・」と。・・・その商品はまだ世の中に存在していない全くの新商品ではあるが、ターゲット顧客がぼんやりしており、当然、市場もぼんやりしている。更に、その技術と称するものは、既存技術の応用ではあるが、部材やユニットは外部仕入品であり、独自性と優位性が極めて曖昧な状況で驚かされた。モノづくりの現場では、どうしても起こりがちな事だが、ビジネス的視点での「新規」の定義が極めて曖昧な場合が多いということかもしれない。



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図の①〜④について整理してみよう。


① 【既存市場に既存商品を投入・展開】:この領域は、ご周知の通り、一般的に言われる、売れるモノと売れる市場として、多くの同業他社が存在している。商品力やその需要が継続的に認知されたものは、「定番」としてのポジションを築くが、流行的要因を持つものは、出ては消えていく。・・・品質や価格に対しての要求は厳しい状況となり、付加価値を生みづらい状況でもある。



② 【新規市場に既存商品を投入・展開】:商品は存在しているが、まだ顧客側が体験していない市場であり、ターゲットは様々な事が考えられる。この場合は、商品そのものの価値をどのように伝えるかが主な思考作業となる。しかし、よく目にするのは、ひたすら商品の説明やサービスの実績と優位性などのプレゼンで、顧客側の目線が全く無視されている場面である。未だ何も知らない顧客に初めてその商品やサービスを認知してもらうには、それそのものが、顧客にとってどんなメリットや魅力があるかを最初に伝えるべきである。



③ 【既存市場に新商品を投入・展開】:市場が存在し、新たな価値提供を図る場合は、②の場合以上に、想定する顧客とその利用シーン(仮説)の緻密な情報精査・分析が必要となる。新たな商品やサービスは、市場が存在していたとしても、簡単には受け入れられない場合が多い。特に日本のB2Bでは、「実績がない」の一言で、相手にされないこともある。



④ 【新規市場に新商品を投入・展開】:最後に、全く新しい市場(顧客)に新たな商品(価値)を提供するケースとなる。(前述の順で段階的に、そのハードルが上がる事がお分かりいただけるだろうか?)ここでは、大変なエネルギーが必要とされる。なぜなら、顧客と提供する価値の両方が未完成な状況である。仮説立ても、一番中途半端になりやすい場合が多い。(漏れ、ダブりの連続)


と考えると、今まさに新規事業に着手する場合、①~④のどれに該当するのか?まずはそれが最初の定義となる。



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今回の最後に、もう1つ過去の事例をご紹介する。2002年頃の約1年間かけて、外資系機械メーカーの「新規事業」案件を手がけた事がある。このメーカーの機器製品は、世界的にも非常に評価が高く、その機器の導入がその業界における一つのステータスとも言える実績があった。



依頼された新規事業とは、「この機器製品における消耗品販売部門の立ち上げ」であった。本国側では、既にこのランニングビジネスは立ち上がっており、日本だけが遅れていた。通常、本国のやり方や実績を、そのまま転用して展開することが多い。しかし、この設備機器は生産機であり、歴史のある業界のため、日本市場では多くのステークホルダーが存在し、商習慣も確立されていた。その状況でも、この事業を立ち上げる必要があった。その理由は、日本市場での本業の機器販売事業が飽和点を迎えつつあり、国内競合メーカーには勝てない状況が近づいている事を予期していたからである。よって、根幹となる事業そのものの改革が必要であった。



※画像はイメージです。

さて、「消耗品販売部門の立ち上げ」に際して最初に行ったのは、日本市場でのこのメーカーの機器販売の実績を探ることである。1960年代以降国内には、なんと、17,000台以上出荷されていた。そして、現存し稼動しているのは、約9,000台であった。この機器は、定期的なメンテナンスも伴うため、メーカー側の保守専門の技術職(サービスマン)は、全国に100人以上存在していた。この前提条件から、課題事業の売上予測を立てていった。



このケースは、明らかに①に該当し、一番困難とも思える状況である。仮説から数値的な予測を立てるのは2ヶ月弱で完成したが、問題は、「誰が誰にどう売るか?」ということであった。そこで、社内・外に様々なヒアリングを実施した。結果、いくつかの仮説を立てた。それは、いわゆる4Pと言われるマーケティングの要素毎に考えることになった。



ヒアリングの結果、まず商品(Products)は既存で存在し、価格競争(Price)が厳しい。加えて、使用する側の状況は、機器そのものの独自の条件設定等があり、消耗品とはいえ、選択肢がパターン化されており、一度決めたらリプレース(置き換え)は非常に困難。入手経路(Place)は、長い付き合いの業者(商社等)が存在している。そして、個々の商品・技術情報は口コミ等(Promotion)がメインという状況だった。さて、どこから手を付けるか???



まさに、レッドオーシャンへの参入ではあったが、唯一の勝ち筋を想定することができた。それは、以下のような事実が見えたからである。この機器は、国内に輸入され始めてから、業界で「ベンツ」と称される評価により、非常に高いブランド力を有していた。そのため、この「ベンツ」級の機器の導入が、導入企業の経営者にとって一つのステータスでもあった。また同時に、この機器のサービスマンも一定の評価を得ており、継続的な保守契約をしている顧客との関係性は、非常に良いものである、という事実である。よって、以下のようなシナリオを仮説とした。



「この機器メーカーが選定する消耗品は、自信を持ってお勧めできる厳選されたものであるが、個々の顧客の要求や課題が異なる。そこで、個々の場面に応じて、信頼と安心をセットにした可能な限りのサポートを付加価値として、消耗品のそれぞれの商品をサービスマンがお勧め(販売)する。」といった内容である。これには当初、全国のサービスマンのうち、東西の元締め的存在の2人のマネージャーに猛反発を食らった。「なぜ、技術者(サービスマン)が営業(販売)しなければならないのか?」と。



当時、外資系であれ、日本企業であれ、組織は役割分担と機能分担を分ける構成になっているのが当たり前であったが、その前提条件を覆す上記のシナリオは、簡単に受け入れられるものではなかった。第一回目のキックオフミーティングでは、まさに槍の視線を一身に食らって、このシナリオを必死に説明した。その後も、毎週水曜日朝の9時から1時間程度の定例会を開催し、継続した。2ヶ月も経った頃に、東の責任者に「そこまで言うなら、明日、山梨の顧客に一緒についてこい」と言われ、同行した。そこで、メンテナンスの状況を観察しつつ、現場の方々へのヒアリングも実施した。最後に、本件に関する一つの質問をした。「消耗品を選ぶ際に、どうやって選んでますか?」と。すると、「サービスマンの方に参考意見を聞いたり、同業他社の知り合いに問い合わせしたりしている・・・」との返事であった。



同行した東の責任者は驚きもせず、「ということで、我々も協力する。」と約束してくれた。余計なことは何も言わなかったが、現場の生の声が、東の責任者を一瞬で動かしたのである。その後は、西の責任者もこの件を知って、西を取りまとめてくれた。また、その後の定例会は、ビジネスを進めることを前提にしたディスカッションの場に変わった。厳しい意見も出たが、非常に闊達に有意義なものになっていった。そして、全容がまとまった時点で、私は全国のサービスマンへのオリエンテーションに回り、並行して、OEM的に提供してもらうパートナー先との交渉も進めていった。結果論ではあるが、早い段階で本件に理解を示し、即契約書を交わしたパートナー企業は、どんどん売り上げが上がっていったが、一方で、大手企業のグループ会社は、半年交渉しても契約書にサインをせず、挙句の果てに、契約条件の変更がなければ、協力できないと通告してきた。その企業は、その後、業界での存在感は次第に薄れていった。



恐らくは、新たな決断のポイントは、いかに「リアリティのある声が拾えるか?」ではないだろうか。また、自社のルールや固定概念を改革することができない組織は、停滞の一途を辿る結果になりかねない。





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